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イベントレポート

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2013年9月3日(火)19:00~21:00

中井 精也(なかい せいや) / 鉄道写真家

DREAM TRAIN
鉄道はみんなの夢をのせて

鉄道写真というと「鉄道車両」を写した写真を想像する人がほとんどではないでしょうか。今回ご講演いただく中井氏は、毎日一枚鉄道の写真を撮影して公開するブログ「1日1鉄!」や、ローカル線ののんびりした雰囲気を被写体とした「ゆる鉄」シリーズ、そして同氏が鉄道で旅をしながら出会った人の写真を撮り、その人の夢を聞く「DREAM TRAIN」など、鉄道の「車両」ではなく鉄道が持つ「旅情」や「郷愁」などを被写体として撮影しています。同氏が独自の世界観で捉えた、さまざまな鉄道写真のスライドショーを楽しいエピソードとともにお話しいただきました。

「子どものままの心」を使って自分のイメージを写真に入れてゆく

 鉄道写真家として人気を博す中井精也氏。今回のセミナーでは「ゆる鉄」や「ほのかたび」、「DREAM TRAIN」など、中井氏がこれまでに写真展などのためにシリーズとして撮ってきた400枚以上の作品を鑑賞。鉄道、そして鉄道写真の魅力が満載の2時間となった。
 鉄道写真というと、人がイメージするのはやはり車両だろう。列車をアップにした、列車が主役の写真。むろん、中井氏も仕事ではこうした写真を撮っている。しかし、「作品」となると違う。
「鉄道写真はもっと自由でいいのではないか。」
 そう思って9年前に始めたのがブログにアップしている「1日1鉄!」だ。ここには中井氏が日常のなかで撮った写真や日本の美しい風景と鉄道をからめた写真が毎日公開されている。モニターには、秋田県の角館で撮った「白鳥と秋田新幹線『こまち』」の写真、島根県益田市で撮った「石州瓦と走る列車」の写真、東日本大震災の被災地で撮影した「三陸鉄道」の写真など、情感たっぷりの作品が次々と映る。なかには現実のものとは思えないような幻想的な作品もある。実はこれが中井氏の作品の特徴だ。
「カメラというのは目の前にあるものをそのまま写す機械と思われています。でも僕は写真というのは必ずしも目の前にあるものをそのまま写す機械ではないと思っています。」
 自分の中にある「乙女心」や「子どものような無邪気な心」で自分のイメージを写真に入れていく。そういう意味では「現実そのものの風景でなくてもいい」。
 次に見せてくれたのは三陸鉄道のワンシーン。空をバックにシルエットとなって浮かぶ列車と手旗で信号を出している駅員。本来なら点灯する信号機は震災で停電となったため動かない。だが、中井氏は重たい雰囲気の写真をただ重くするのではなく、自分の思いを感じたままに伝えようと美しい作品に仕立ててみせた。
 そうした作風を進化させていったのが、誰もが懐かしさを感じるローカル線の心象風景を写真にした「ゆる鉄」だ。踏切の上を流れる雲、線路沿いに咲くたんぽぽ、学校帰りの高校生、駅前の駄菓子屋、改札口で見つけたカタツムリ、駅で遊ぶ子どもたち……現実のような夢のような、記憶の中のようで日常のような、次々に披露される作品からは中井氏のやさしい視線が感じられる。

鉄道で「かけがえのない日常」を表現する

 ここで3年前の写真展「ほのかたび」のスライドショー。舞台は三重県を走る三岐鉄道北勢線。テーマソングとともに見る写真はまた一段と味わい深い。花が多く、出て来る人たちはみんな笑顔。全体にソフトなイメージの作品群はまさに「ほのかたび」といったタイトルにぴったりだ。
 セミナー前半はこの他にも最近行ったベトナムでの写真、遊び心全開の模型を使ったトリック写真、連続テレビ小説『あまちゃん』のパロディー写真、自宅の庭につくった「ゆる鉄蒲生線」の動画や写真を惜しげなく披露。ユーモア溢れる中井氏のトークに会場には幾度も笑い声が響いた。
 印象的だったのは、常磐線夜ノ森駅に咲くつつじ。「駅長さんも仕事を忘れて見とれてしまう」ほど美しいつつじは、いまは誰の目にも触れることはない。夜ノ森駅は福島第一原発に近いため、現在は立ち入ることすらできないからだ。そこにあった当たり前の日常がある日突然なくなってしまう。東日本大震災は、人々に「日常というものがいかにかけがえのないものか」ということを教えた。中井氏は「鉄道は平和な日常の象徴であると信じている」という。被災地にある三陸鉄道は、地震から5日後には運行を開始し、無料の支援列車を走らせた。鉄道が動き出す。それによっていかにみんなに安心感を与えたか。
「鉄道でかけがえのない日常を表現していけたら。震災後はとくにそう感じています。」
 中井氏は埼玉県越谷市在住。作品にはその越谷が舞台のものも多い。「いつもの公園」で撮った楽しい写真。そして娘と過ごす父親としての日常。前半の最後はリコーGR(カメラ)のキャンペーン用に制作した「親心をテーマにしたスライドショー」。千葉県を走る小湊鉄道で撮った愛らしいお嬢さんとの旅。見ていると、自然とあたたかな気持ちになる写真ばかりだ。

人々の夢を聞く「DREAM TRAIN」

 後半は、昨年1冊の本にまとめた「DREAM TRAIN」を紹介。これは北海道の稚内から九州の枕崎まで、JR線を19日間かけて旅したときの記録。この旅で中井氏は鈍行列車に乗りつづけ、出会った人々にその人の「夢」を聞いてまわった。東日本大震災では「日常の大切さ」にあらためて気づかされた。そして長く鉄道写真を撮ってきて「何かが足りない」と感じていたときでもあった。最後のワンピースはなにか。それは鉄道を外から撮るのではなく中から撮ることだった。稚内からスタートした旅で、中井氏はさまざま「夢」を聞いてまわった。そして人にはさまざまな夢があることを知った。高山本線の美濃太田駅ではひとりの女子高校生に出会った。「来年は看護系の大学に進学する」という彼女に、中井氏はさも当然のごとく「じゃあ夢は看護師さんですね」と返す。が、戻ってきたのは「違います。それは職業です」という答え。そして彼女はこう言う。「私の夢は明るく生きていくことです」と。
「これには一本とられた。いつの間にか僕の中には、夢とはこういうもの、この子の夢はこうだと決めつけている自分がいたんですね。」
 「女子高生に人生を教わった」と笑う中井氏。総距離にして7044.3キロメートル、19日間の旅では154本の列車を乗り継ぎ、こんなふうに188人の人に出会い、「夢」を語る人たちの写真を撮った。
 このあともスライドショーを連続して上映。震災後の三陸鉄道に乗った時の「DREAM TRAIN」やパリのサン・ラザール駅で撮影した、まるで映画のワンシーンのような出会いや別れの写真の数々。そして最後は元気な歌とともに「ゆる鉄」。美しい写真はどれも「日常に隠された奇跡」を写している。中井氏は常にその奇跡を探し求めている。
「僕の写真からは、写真そのものだけでなく、何かに打ち込んでいる人間のおもしろさ。人生の素晴らしさ。そういうものも見ていただけたらなと思っています。」
 夢は「地上波で冠番組を持って自分の写真とともにローカル線の魅力を伝えること」。
「『中井精也のぶらり各駅停車』みたいなコーナーが持てたらいいですね。」
1枚の写真に映し出される「日常に隠された奇跡」。そんな「奇跡」を求め、中井氏の旅は続く。

講師紹介

中井 精也(なかい せいや)
中井 精也(なかい せいや)
鉄道写真家
1967年東京生まれ。成蹊大学法学部卒業後、写真専門学校を経て、鉄道写真家の真島満秀氏に師事。独立後、2000年に有限会社レイルマンフォトオフィス設立。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道にかかわるすべてのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影し、「1日1鉄!」や「ゆる鉄」など新しい鉄道写真のジャンルを生み出した。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動。著書・写真集に「デジタル一眼レフカメラと写真の教科書」「DREAM TRAIN」(インプレス・ジャパン)、「ゆる鉄」(クレオ)、「都電荒川線フォトさんぽ」(玄光社)などがある。社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本鉄道写真作家協会(JRPS)副会長。

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