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2014年3月20日(火) 19:00~21:00

小林 敦(こばやし あつし) / 立教大学社会デザイン研究所研究員

野生のロボティクス・デザイン
-社会デザイン学への誘い-

『鉄腕アトム』や『ドラえもん』といったアニメや漫画の世界で慣れ親しんでいる私たちも、最近の新しいロボットの登場には驚かされる。掃除ロボット、介護ロボット、レスキューロボット、ロボットカー(自動運転車)、ウェアラブル端末・・・。このような実体としてのロボットを考えることは、究極的には「人間とは何か」を社会存在論的に考えることであり、ロボットをデザインすること(ロボティクス・デザイン)は、未来の社会をデザインすること(社会デザイン)でもある。こうしたロボティクス・デザインと社会デザインを結ぶ鍵は、人間の五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を喚起して、QOL(人生の質)を高める生活のパートナーとしてのロボットとのコミュニケーションをデザインすることにある。このためには、哲学、心理学、人類学、法律学、経済学、情報学、工学、生物学、化学、医学、福祉学等、人文・社会科学と自然科学の複数領域の知見を融合する必要があると考えられる。また産学官が連携して新たな社会システムを共創することで、現実の社会課題を解決するソーシャル・イノベーション創発の思考と実践としての総体である「社会デザイン学」も希求されている。今回は、論理と感性のロボティクス・デザインの挑戦事例を学際的に読み解きつつ、「社会デザイン学」の可能性を探究する機会となった。

古代ギリシアの時代からロボットは人々の「夢」だった

「今日はロボットをテーマに、それがどう社会に浸透し、我々と関わっていくのか。そういうお話をしたいと思います」
講師の小林敦氏は立教大学社会デザイン研究所の研究員。社会デザイン学の観点から、未来のテクノロジー・デザインについて研究している。
ロボットといえば、人々が想像するのは『鉄腕アトム』や『ドラえもん』といった漫画やアニメのキャラクター。その原点を辿っていくと、行き着くのは古代ギリシア。ホメロスの叙事詩『イリアス』に今で言うロボットに相当するものが登場するという。
「古代から人々は自分たちの仕事を代替するロボットという存在を夢に描いていたのですね」
もうひとつ、ロボット史において忘れてはならないのが、チェコの作家カレル・チャペックが1920年に発表した戯曲『R.U.R(ロボット)』だ。『イリアス』のロボットが「夢」ならば、こちらは「現実」。物語の中には工場労働者の失職や企業の倒産など、ロボットの登場によって起こる社会課題が描かれている。
ロボットは「夢を実現する人工物」。だが、『R.U.R』が示すように、間違った使い方をすると人を不幸にしてしまう。開発にあたっては、「ロボットと人がどのように共生していくのか」を考えなくてはならない。ロボットを考えることは人間について考えることにかなり近い。実際、小林氏も高齢者施設などでフィールドワークをするなかで、「『人間とは何か』ということを考えさせられる場面が多い」という。

ロボット普及の鍵は、「社会課題のソリューション」と「人間とロボットの五感」

現在、小林氏が強い関心を持っているのが「サービスロボット」だ。ロボットは一般的に、工場で使用される「産業用ロボット」と、医療・福祉や防災、メンテナンス、生活支援、エンターテイメントなど、多様な用途への活用が期待されている「サービスロボット」に大別される。
「サービスロボット」は、掃除ロボット、食事支援ロボット、歩行支援ロボットなど、すでにいくつか市場に登場しているが、今後さらに普及するかどうかは、自然科学分野のロボットエンジニアと人文・社会科学分野の社会デザイナーが協働したフィールドワークとロボットシステムの社会実装が鍵となる。
すなわち、医療・福祉や生活支援などの対象産業における人間とロボットの業務の棲み分けや、QOL(人生の質)を維持・向上させるための生活機能(心身の働き、生活行為、家庭・社会への参加)におけるロボットの活用場面を理解することが必要だ。
それを理解したうえで、開発されたロボットを実用化するためには対人安全の技術や基準・ルールの法的整備などが必要であるが、それ以上にロボットを活用するにふさわしい「社会デザイン」を構築していかなければならない。
さらに、もうひとつ忘れてはならないのが倫理観や哲学的観点だ。ひとつの例は、今年1月、人工知能学会が発行した学会誌『人工知能』の表紙デザイン。このデザインには若い女性の姿をしたロボットが掃除をしているイラストが描かれている。そこに、「これは女性蔑視ではないか」という意見が寄せられた。「ロボット=人工知能」の未来を考える上で、これは議論の対象となり得る話であろう。
それでは、人間とロボットが共生する社会はいつ訪れるのか。工場などではすでに産業用ロボットがフル稼働しているが、人々の日常生活に介護ロボットが入ってくるには、「まだ相当な時間がかかる」。ただし、のんびりはしていられない。日本は高齢化率では課題先進国。こうした背景もあり、厚生労働省と経済産業省は介護ロボットの開発・導入の促進を目的とした支援事業を展開している。そのうち小林氏がもっとも注目しているのは、在宅介護における独居世帯の高齢者の「見守り」に役立つ転倒検知センサーや外部通信機能を備えた機器のプラットフォームの開発だ。こうしたプラットフォームの開発は、将来的には生活全般の記録である「ライフログ」など社会ビッグデータの収集を可能とし、それを分析することで人間の生活機能とコミュニティの社会サービスを最適に結びつけた「社会デザイン」の構築に寄与すると考えられている。
また各地の大学や企業の最前線では、人間の五感をデジタル化した技術を組み込んだロボットの研究開発が進められている。触覚ではロボットスキン(電子皮膚)、味覚では味認識装置、嗅覚では嗅覚センサー、視覚ではロボットカー(自動運転車)、聴覚では高感度マイクなど、テクノロジーの爆発的進化が起こっている。将来、人間のような五感を具備したロボットが登場する時代が到来するかもしれない。そのとき、人間とロボットはお互いに五感を通して、どのようなコミュニケーションを図るのか。哲学的にも心理学的にも興味は尽きない。
さらに神奈川県では、「さがみロボット産業特区」をつくり、「医療・介護」「高齢者への生活支援」「災害対応」に有効な生活支援ロボットの実用化に向けて支援している。そこでは、産学官が連携して新たな社会システムを共創することで、社会課題を解決するソーシャル・イノベーションが起こる可能性がある。

社会全体をデザインして、人間とロボットが共生する社会を

ここで大切なのが「デザイン」。これはたんなるプロダクトデザインではなく、社会デザインを意味する。
「新しいロボットを開発していく上ではクリエイティビティが必要です。そのためには、モノ、空間、情報を単独ではなく、それらを包括的に捉えて社会デザイン学の対象とするべきです」
そこでは、自然科学や人文・社会科学の領域横断的な視点が不可欠だ。
「現代社会が抱えている諸問題を、我々自身がデザイナーとなって考えるデザイン思考。こうしたデザイン思考によって生まれる『ロボットと人間が共生するためのデザイン思想・方法論・製品・ネットワークの総体』が、社会デザイン学のひとつの例と言えるのではないでしょうか」
このような考え方の参考になるのが思想家であるヴィクター・パパネックの『生きのびるためのデザイン』だ。この本の中で、「デザイナーの仕事は諸問題を解決すること」と定義されている。プロダクトデザインに対するアンチテーゼであるこの言葉は、小林氏が訴える社会デザインに結びつくものだ。
「ロボットというと、つい技術志向になりがちですが、市場に求められるものでなければ意味はないし、大前提として人間のQOL(人生の質)を維持・向上させるものでなければなりません。そのためには社会実証と検証を重ね、そこで得た知見を社会インフラとして整備していく必要があります」
締めは千葉工業大学未来ロボット技術研究センターの古田貴之所長の言葉を引用。「『ロボット作りはモノづくりではなくモノゴトづくり』。真に優れた未来のテクノロジーは人間の住む社会や文化に土着することで普及します。それによって作られた新しい社会の価値観や経験をロボティクス・デザインに取り入れていかなくてはなりません。私たち一人ひとりが社会デザイナーとしてそれを実現できたらと願っています」
小林氏の「夢」は、「ロボットを相棒にする社会の実現」。高齢化という社会的課題を抱えた日本こそが、そのフロントランナーになるべきだろう。

講師紹介

小林 敦(こばやし あつし)
小林 敦(こばやし あつし)
立教大学社会デザイン研究所研究員
慶應義塾大学経済学部卒業。青山学院大学大学院国際政治経済学研究科国際ビジネス専攻修了。早稲田大学大学院ファイナンス研究科ファイナンス専攻修了。現在、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科比較組織ネットワーク学専攻博士課程後期課程在籍中。住友銀行、野村総合研究所、プライスウォーターハウスクーパース、早稲田大学ファイナンス研究センター、NPOサポートセンター、ソーシャルファイナンス支援センターなどを経て現在に至る。論文に「共進化するテクノロジー・デザインの可能性-パパネック、ノーマン、ラトゥール、カロンの社会デザイン学-」(立教大学大学院21世紀社会デザイン研究第11号)、「野生のデザイン-『技術と社会の共進化』および『人間の共感覚』を巡る思考と実践-」(立教大学大学院21世紀社会デザイン研究第12号)がある。

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